director's voice

大野七実さん(陶磁)

Q
地元千葉県市川市で作陶を続ける大野七実さん。
「工房からの風」には、どのような作品を出品くださいますか?

A
手びねりと型を使って制作した、カップやお皿など日常使いのうつわと、
花のうつわを出品いたします。
そっと誰かの暮らしの風景になるような、
そんなうつわがつくれたらいいなと思い、色を重ね、制作しています。
秋の手仕事のお庭の恵みいっぱいに囲まれ、
植物とうつわとの軽やかな響き合いも見ていただける展示にしたいです。

それともうひとつは。
「いちにちひとつのカタチをつくる」
を今回の私の craft in action として、
普段の仕事とは別にお見せしたいと思っています。

自分にとってうつわってなんだろう?
そんな問いかけがいつも私のつくる時間の中に漂っています。
掌のなかの小さな土の塊から、1日ひとつだけその日のカタチを残す。
日記を記すように…
ルールは玉作りだけ。
そんなことを春のおわり頃から始めました。
毎日制作に向かえない環境にいる自分にとって、
それはひとつのチャレンジでもあります。
遅く帰った夜でも仕事場に寄り、その日のうつわをひとつだけつくって帰る。
そうして必ず土に触れるのです。

うつわについて思うこと。
日々続けること。
この手から生まれるカタチ。
美しいもの。

こたえはずっとずっと先にあるものなのかもしれません…。
この秋、風に向かう私の時間がこころの種となり、
いつか淀みなくうつわの静かな深みへと映してくれることを信じて。
今は丁寧に手を動かす毎日です。

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Q
故郷に吹くやわらかな風。
わたしの大切な道しるべのようにいつもこころの奥にそっと感じていたい風です。

若い頃にご縁をいただき、
「工房からの風」が生まれてからの歩みをそばで見てきました。
毎年ずっと見る側にいましたが、またここからはじめたい
という再出発の想いから、今年初めて応募を決意し、出展が決まりました。

初心に還る思いと、緊張と、わくわくと、、、
私にとって home のような場所。
その場にはじめて立つ自分は、どんな想いを蓄え、
またここからどこへ羽ばたいていけるだろうか?
澄んだこころで次の頁をめくれるように…。

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Q
針仕事から木彫りまで、とても器用で多趣味だった祖母と。
身の周りのことは工夫してなんでも独自に作ってしまう父と。
そして、もっとも影響を受けた (今も受け続けている) 尊敬する姉と…。
幼き頃からつくることが自然と身近に感じられる恵まれた環境に育ちました。

小さい頃は、姉と2人でお庭に宝物を隠しその地図を描いて遊んだり、
梅林や川の土手を走りまわり、木の実や草花を集めたり…。
姉の後ろにくっついていつも遊んでもらっていましたね。
あっ、今も関係性は昔と変わらずたいして進歩していませんが…、笑。

毎年夏には家族で千葉の海に旅行に出かけました。
砂浜で大きなお山をつくり、固め、そこにあっちとこっちと両方から穴を掘るんです。
崩れないようにそうっと、そうっと掘りすすめ、
ようやくトンネルが貫通し、姉と指が触れたその瞬間。
つながったことがただ、ただ、とてもうれしくて、
よろこんで、はしゃいでいました。

お山は波に消されかたちが残るものではありませんが…。
さかのぼって記憶を辿り、幼き頃の私のものづくりの初めては、
夏の海のあの砂山のように思い出されます。

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「いちにちひとつのカタチをつくる」

七実さんとはお会いする機会が多いのですが、このことは知りませんでした。
素敵な試み。
驚きました。
きっと不言実行、確かなものになってこうして、伝えてくださったのですね。

驚かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、七実さんは今回が初出展。
長く続けてこられた陶芸ですが、次の地平に向かおうというとき、
この場を選んでくださったのですね。

慎重に石橋をたたいて渡る七実さん。
10月のお庭での展示に向けて、どれほど真剣に向き合ってこられたことでしょう。
人気の食器、花器の数々、いちにち一つずつ作られたかたち。
準備万端、たくさんの魅力ある作品に満たされますね。

3のメッセージをからも、七実さんの心の中には、
ストーリーがたくさん息づいているのですね。
その手になる器自体は静かな表情ですが、
そこにひそむ物語性が器の表情の奥行となって、
七実さんならではの風合いを生みだしています。
お料理も、花も、美しく、優しさに包まれた表情で受け止められていきます。

七実さんのこと、拙著「手しごとを結ぶ庭」の最後の章で綴っています。
お手元にありましたら、再読していただけましたら。
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大野七実さんの出展場所は、ニッケ鎮守の杜の中央花壇のほとり。
お姉さまの大野八生さんも丹精くださっているお庭の中で、
にこやかに皆様をお迎えすることでしょう。