director's voice

松本郁美さん(陶芸)

今年の陶芸には絵付けもされる作家が4人います。
それぞれに素材や技法、テーマが違ってユニークなお仕事。
ぜひ、会場で行ったり来たり!してみてくださいね。

では、その絵付けでは先日の長野の竹村聡子さんに続き、
京都で作陶される松本郁美さんからのメッセージをご紹介しましょう。

Q
松本郁美さんは「工房からの風」に、どのような作品をお持ちくださいますか?

A
磁器に掻き落とし
(化粧土を陶磁器表面に塗り、
模様だけを残して周りを削る技法)
という技法を用いた器を出品します。

私は古いものが好きで、
特に中国の古陶器の持つ独特の形や、
絵柄に強く影響を受け、陶芸を始めました。

その中で、自然の草花、動物、小紋、
その時々に感じたものをモチーフに、
どこかアンティークだけどあたらしい
今の暮らしに寄り添う、日々の器を出品します。

1つ1つ手描き手彫りで作るため、
デザインは同じでも絵の表情が少しずつ違い、
特別な1つを選んでいただきたい気持ちで作っています。
鉢やお皿、茶器、ティーポット、花器を出品します。

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中国の古陶器の持つ独特の形や絵柄に惹かれたという、
ものづくりへの原点のような感覚、想い。
制作を続け、職業として発表するなうちに、
その原点からはぐれてしまうこともありますね。

松本さんと春の終わりにゆっくりお話しをさせていただいたとき、
やりたいことと、望まれることの溝に迷い込んでいるように感じました。

そんな時は、原点、です!
原点のままにいることはありませんが、
そこから発展、進化成長しているのならよいけれど、
無理に蓋をしてしまったり、見えなくなってしまっていたら、
振り出しに戻ってみたら。
そんなことをお話ししました。

そもそも、望まれることって、
そんなに大事じゃなかったりすることもあります。
まじめなひとほど、望まれることに応えようとしてしまう。
けれど、そこで苦しくなってしまうなら、
望まれなくってもやってみたいことをやってみては。

なーんて、この日も、わははと笑い飛ばしながら
ふたりでお話をしたのでした。

松本さん、来られた時とは打って変わった表情になられて、
まさに憑き物が落ちたよう!に爽やかに。
そして、夏から現在、焼きあがってくる作品も、
まさに爽やかに伸びやか。
松本さんならではの器になっています。
よっかた!
ぜひ、皆様にもご覧いただきたいです。

Q
松本さんにとって「工房からの風」は、どのような風でしょうか?

A
忘れもしない、思いがけぬ時に
春一番が音を立てて通り過ぎたような風。
そこからが始まりでした。

初回ミーティングから時が経ち、稲垣さんとお話をさせていただき、
今は余計なものや不安が削ぎ落とされ、
この風を身体と心で感じ、
しっかり両手を広げて捕まえることができる予感がしています。

心から届けたい器、なりたい自分へ向かわせてくれる
追い風になってくれることと思います。

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もうすでに、松本さんに風は届き、吹きこんできたんですね。
二日間は完成、終わりではなくって、ここからが始まり!
さまざまな感想や結果のひとつひとつが、次への恵みなのだと思います。

Q
松本郁美さんのお名前、あるいは工房名についての由来、
またはエピソードを教えてくださいますか?

A
私は工房名はないため、名前の由来をお話しします。
今まで深く自分の名前について考えたことはありませんでした。
昔漠然と聞いた事がありましたが、実家の母へ改めて連絡をしてみました。

「郁美」
始めは生きる、生命力の「生」という一文字を入れて
「生美」にしたかったようですが、
同時に母がさまざまな文化、日本の文化、ことばの持つ美しさ、
深さを大切にできる人に育って欲しいという願いもあり、
最終的に「郁美」と名付けたそうです。

文化というのは、芸術も含まれると思うのです。
陶芸が芸術と言えるかどうかは分かりませんが、
今こうして陶芸という手しごとを仕事にして生きているという事は、
名前の力もあるのかな、としみじみ考えました。

大学を機に、いつの間にか故郷になってしまった実家。
自分の名前で生きるということは、
大切な家族と離れて暮らしていてもいつも一緒に生きている
ということだと改めて感じることができました。

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かおる、という意味の美しい文字ですね。
今回の質問がきっかけとなって、お母様とこのようなお話をしていただけたのも、
なんだかうれしいことでした。

松本郁美さんの出展ブースは、コルトン広場、スペイン階段前です。
手彫り、手描きのこまやかに手のこんだ器。
ぜひお手に取ってご覧ください。

written by sanae inagaki