director's voice

梅田かん子さん(陶磁)

2009年、今から7年前に出展くださった方が、
「工房からの風」に帰ってきてくださいました。
梅田かん子さん。
当時は小杉かん子さんというお名前でした。
その後ご結婚されて、二児の母となられての再登場!です。

Q
梅田かん子さんは「工房からの風」に、どのような作品をお持ちくださいますか?

A
白磁にいきものや植物を上絵付けで描いています。

7年前の初出展の時はロクロ成形のものが主だったのですが、
今回は「タタラ成形」という、
薄く伸ばして板状にした土を切り取り
成形する方法を主として制作しています。

「タタラ成形」では板状のものを組み立てる事になるので背が高く
くびれのあるものは作りにくいのですが、
試行錯誤の末、ピッチャーや徳利など
コロンとした形のものが作れる様になりました。

いきものと植物を描いたカップ&ソーサーや
水族館をモチーフに描いたピッチャーもタタラ成形で作っています。
最近ようやく自分の絵付けに合う形が作れる様になってきたと感じています。

121016c-600x800

かん子さんの絵付けは、一目見たら忘れられないような個性的なもの。
モチーフ自体が花鳥風月というよりは、生きとし生けるもの、といった感じで、
バッタやキリンなど通常器には描かれないものが登場します。
また、そのタッチが所謂愛らしいばかりではないところがぐっときます。

前回の出展以降、お客様から再登場のご期待もいただき、
工房からの風としてもお待ちしていたのですが、
作家からはそれ以降連絡が途絶え、
謎の?小杉かん子さんとして存在していたのでした。

その間、結婚、出産を経て、新たな人生を開きながら、
ご自身の制作の在り方との葛藤を重ねてこられたのでしょう。
7年ぶりに名字が変わっての応募用紙には、
進化した作品の写真に、静かな決意が綴られたものが添えてありました。

Q
梅田かん子さんにとって「工房からの風」は、どのような風でしょうか?

A
2回目の出展という事もあり、
前回の出展時には見えなっかた風が見えています。

まだまだ見えてない風も感じていて、
この先見えるのか見えないのか果たして見たいのか。
多くの事を考えさせてくれる風です。

今の私にとっては暴風。
吹き飛ばされない様に自分の足元を
しっかり確認しながらここまで取り組んできました。

121016a

富山県在住のかん子さんとは、準備期間、
お目にかかったのは二回でしたが、
電話やメールで何度も言葉を交わしました。

「自己ベストは更新したい」
かん子さんの言葉の中で印象的なフレーズです。
ふたりの幼い男の子との時間は、大変ながらも
愛おしくて過ぎていくのが惜しいばかりのことでしょう。
けれど、自分の作りたい、描きたいものがある。
そのふたつの想いに身をちぎられそうな中、
だからこそ、やるからには上を目指そう、
それこそが自分への、そして家族への本物の愛だと信じて。
かん子さんはこんなふうに思っていたのではないでしょうか。

今回、たたらでの立ちもの(皿ではなく高さのある器)への挑戦をはじめ、
一歩ずつ前進させた成果がまもなく庭にやってきますね。

Q
梅田かん子さんのお名前、あるいは工房名についての由来、
またはエピソードを教えてくださいますか?

A
7年前の初出展の時は「小杉かん子」という名で出展していました。
その後結婚、出産を機に「梅田かん子」と改めました。
旧姓のまま作家名として続けるという選択肢もあったのですが
「梅田かん子」に変える決断をしました。
決断なんて大袈裟な言葉かもしれませんが、
やはり独立してから8年間、
頑張って育ててきた名前を捨てる事に当時は抵抗がありました。

今は6歳と4歳の男の子を育てながらの制作で、
続けていくのは難しいと感じる時もあります。
そんな中でも作ることを続けさせてくれる主人に感謝しています。

「梅田かん子」は私一人の名前ではなくて、
支えてくれる主人や子供たちと共にある名前だと最近感じる様になりました。
今は家族と共に「梅田かん子」という名前を育てていきたいと思っています。

変わった名前のせいか「かん子さんは本名ですか?」
とよく聞かれるのですが、
実は「かん子」は作家名で本名ではありません。
なぜ「かん子」なのか?本名は??
気になられた方はぜひ「工房からの風」で
直接私に問いかけてみて下さい。
お答え致します!
ヒントは「かんは音読み」です。

121016b-799x599

作家名を家族とともにある名前だと想い抱けるひとの幸福。
かん子さんの描く器は幸福の器ですね。

『自分にとって、正直、当日の結果はたいして重要ではないんです。
当日まで、どんなふうに仕事に取り組めたか、
その過程こそが自分にとっての「工房からの風」なんです。』

ある日届いたメールにはこのように綴られてありました。
そう取り組める人の心の姿の眩しさと、
「工房からの風」が成熟してきた喜びを感じさせてもらったのでした。

と、いささか長くなりましたね。
かん子さん、7年も音信不通で、まったく素っ気ない?(笑)ようでしたが、
こうして再び2016年の工房からの風で共に仕事ができたことがうれしいのです。

梅田かん子さんの出展場所は、ニッケ鎮守の杜に入ってすぐのところ。
金属のRenさんや、とりもと硝子店さんと対面の緑の空間です。

ホームページはこちらになります。
→ click

text sanae inagaki