director's voice

松本郁美さん(陶芸)

スペイン階段前で出展していた京都の松本郁美さんからもメールをいただきました。
ちょっと長いですけれど(これでも一部ですが!)
掲載させていただきました。

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工房からの風での二日間、本当にお世話になり、ありがとうございました。
月曜日早朝に京都へ戻り、少しずつ片付けをしながら、
この二日間の事をゆっくりと整理をしておりました。

この二日間は、今までのものづくりの中で、
展示の中で一番内容の濃い、一番熱い気持ちになれた二日間でした。

思えば3月に思いがけない通知が届いてから半年間、
この日を迎えるために、心も体も頭も常にフル回転、怒涛のような日々でした。

5月の個人ミーティングでは、いつものあがり症と緊張で
稲垣さんと初めて二人でお話しをさせて頂いた時、
ミーティングというよりは、今抱えてる制作の悩みや、不安感など、
人生相談のようになってしまったことを覚えております。(笑)

その時のお話しで、私はいつの間にか、
段々自分の制作が迷路の迷い道の中にいるような
不安感を稲垣さんへお話ししました。
その時に、稲垣さんがおっしゃって下さった言葉が
本当に強い気持ちに向かわせてくれたのを今でも覚えています。

「自分が迷っているものを、お客様はいいと思わないと思うよ。
松本さん自身が本当にやりたい事をやって、
それをいい!って言って貰える方々に出会える事が、
これからの長い作家人生の中で大事なんじゃない?
例え、お客様が少なくなったとしても、
自分のやりたい事を作り生きていく事に意味があるんだと思うよ。」
「迷った時は、原点に返ってみたら?」

さらりと稲垣さんは、おっしゃいましたが
私は頭を打たれたような感覚でした。
この二つの言葉が、本当にあたたかく、
一気にパッと気持ちが軽くなり、帰る時には、
紛れもなく明るい気持ちでした。
今までこんな言葉をかけて下さる方に出会えた事もなかったですし、
こんなに作り手の気持ちを真っ直ぐに見つめ一緒に考え、
しっかりと次へ向かわせてくれることに、
改めて工房からの風に出れる自分は幸せだ!と思いました。
私が工房からの風に応募した時、自分の中で求めていたものだったので、
本当に嬉しかったです。

それから数ヶ月、よっしゃ!と気持ちの切り替えスイッチが入りました。
いつの間にか同業者の評価、
ギャラリーやお店の方々の評価に気持ちがぶれてしまっていましたが、
そうじゃない、本当に見てもらいたい人はお客様、
自分の器を好きだと言って下さる方、
思い切ってやりたい事をやりきろう、見てもらおう、
その気持ちのみで我武者羅に、制作をする事ができました。

そして緊張と少しワクワクする気持ちで迎えた当日。
二日間、沢山の笑顔でいられる日を迎える事ができました。

私の中で、工房からの風は「人と人の輪」でした。
ここに来るまでに支えてくれた家族、
制作で立ち止まった時、大丈夫や!と背中を押してくれた友人
、いよいよですね、頑張りましょう!と、度々メールをやり取りした
ミーティングを通して仲良くなった同期の作家の方々
感謝しても感謝しきれません。

そして、稲垣さん、工房からの風を支えて下さってる風人さん、
風サポーターの皆さま。
会場で困っていると、大丈夫ですか?と
笑顔で優しく声をかけて下さった風人さんの細やかな声かけが、
どんなにホッと出来たことか。
安心して最後まで展示を全うする事が出来ました。

そして今回初めてお会いするお客様たちが、
1つ1つじっくり器を見て楽しそうに選んで下さる姿、
一日目迷って二日目に来て下さったお客様、
二日間共、足を運んで下さったお客様
これはどんな料理が合うかしら?使うのが楽しみだわ、
とそんな会話のやり取りが、心から楽しくとても幸せな時間でした。
来年も出してます?と声を掛けて下さった方々
思いもよらない優しい言葉やご感想に、ただただ胸がいっぱいになりました。

終了後、Instagramやメールなどを通して、
早速お使い頂いた写真や心あたたまるメッセージ、
コメントが、本当に1つ1つ大切な宝物です。

工房からの風は「人と人との輪」作り手、作り手を支えてくれる周りの方々、
それを待って下さる方々、皆さんが1つの大きな大きな輪となり、
作り上げていく、風なんだと思いました。

そんな風の輪にいれた私は本当に幸せでした。
そして、やっぱり私は不器用ですが陶芸が大好きで、人が大好きです。
本当に本当にありがとうございました。

松本郁美

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毎年、ひとり、ふたりいらっしゃいます、個人ミーティングの時、
固まっていらっしゃるひと。
松本さんもそうでした。
そして、今年はちょっと思いつめたような表情の方がいつもより多かった気がします。

私なりに心がけているのは、カウンセラーやコンサルタントにならないようにということ。
冷静でありたいけれど、職業的に向かうのではなく、
工芸やそれを創りだす人を大切に思う、ただのひととして向かおうと。

松本さん自身でこんがらがせてしまった糸は、案外すぐにほどけたようです。
ほどけてしまえば、原点に還るだけ。

個人ミーティングで拝見した絵付け。
筆が止まっていました。
鳥も花も生きていなくって、記号でした。

本展に並んだ器。
鳥も花も呼吸をしているようで。

松本さんが楽しく自信をもって陶芸をし、
それを見てくださる方々を信じていることが、
絵付けにしっかり表れていました。

今、バリバリ活躍していらしゃる工芸作家の方でも、
最初に個人ミーティングをした時には、
まったく自身なさげで、どっちに舟を漕いでいったらよいのか、
わからなくなっていたような方が何人もいらっしゃいます。

「工房からの風」は、お客様も風人さんたちも、もちろん私たちも
ひっくるめて、作家の仕事を肯定している空気に満ちています。
その空気をしっかり吸い込んで、自信と喜びをもって、
制作に打ち込んでいく、その元年になりましたね、松本さん。

松本さんの中国の歴史ある絵付けを感じさせつつも、
現代の食卓に新鮮にある器。
またぜひ出会ってくださいね。

松本郁美さんの出展前のメッセージはこちらです。
→  click

text sanae inagaki