director's voice

三原なぎさんより

「マルテの手記」の話題、出展作家からのメールに触れられていることがとても多いです。

その中で、二者択一的に捉えてしまうともったいない、
と思う節があります。
私の書き方がそう思わせてしまっていたらごめんなさい。

ものをつくり発表することで天国に行こうとしているひと
と、
ものを作っている時間こそ天国と思えるひと

と、書きましたものね、私。
言わずもがなとも思いますが、どちらかを選ぶということではありません。
特に「仕事」「職業」としてものをつくるひとは、
作っている時間が天国であればそれで成り立つわけもありません。
作ったことで返ってくるものを期待することが
よこしまなことだなんて、どなたも思いはしないでしょう。

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硝子作家の三原なぎさんよりメールをいただきました。
ご許可をいただきましたので、一部を転載させていただきますね。

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私はやっと心のざわつきが落ち着き始め、
稲垣さんのブログの括りにもある凪がやってきた所です。

出展後のブログ、拝見致しました。
非常に複雑な思いです。
『作っている時こそが天国』。
ドキっとしました。
私は『自分で作って楽しい、使って楽しい作品を』と一回目のミーティングで話したのですが、
今振り返ると無意識のうちに少しズレがでてきていたと思います。

と言いますのも、日が近づくにつれてどう周りの出店者方に見劣りしないか、
訪れて頂いた方にどのくらい私の作品を伝えられるかばかり考えてしまって。
一番大切な作品達が少し置いてけぼりになってしまったのではないかと思うのです。
なんてかわいそうなことをしたかと思います。
ただ、その中で手にとって頂いた方がいる事に幸せを感じているのは確かです。

では、私は作っている時ではなく、発表することよって天国と感じる側なのか?
私の様な経験の浅い作家が直ぐに答えを出せる問いではないです。

作っている時間は本当に天国です。
素材に触れている時間はとってもハイになります。
ですがいろんな先輩方に『売れないとただの趣味になって終わり』
『作品の良し悪しも大事だけど売る事が上手じゃないと今の時代やっていけない』
と現実的な事も言われました。
その為には先ずは発表の場をつくる。
作ってご覧頂いた方々の反応を見る。
反応によっては改良を加える。

皆さんどのようにバランスをとっているのでしょうか…
もちろん自身で作っている時間が天国に感じる作品が、
きちんとお客様に素直に伝わり、還元されてまた作品の糧になる。
それが理想です。
作って満足、では成り立ちません。

きっと稲垣さんが伝えたいこととは少しずれているとは承知しておりますが、
私が悶々と頭の中を駆け巡っていたのはこんな事です。

答えが出ない…
もっと経験をして、素材と取り組み、遠くない未来に心にストンと落ちる答えを見つけたいです。

ただ一つ、今回出展をさせていただかないとここまで深く自分と対話する事もなかったと思います。
作品達を見つめ直すという事もありませんでした。
今の私に必要な半年間でした。

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なぎさん。
凪ぐ浜の宝もの、にぴったりの素敵なお名前ですね。
↑ の藍色のシリーズ、器もとてもきれいでした。

吹きガラスは、経済という点では制作がとっても大変ですよね。
そこをどうにかしてあげることはできないけれど、
心持ちの部分では、開催前にもっとお話しができたらよかったと思っています。

天国の件は、二者択一ではなくて、
まずは作っていることに深い喜びがないひとを、
私は応援する術がないと思ったのでした。

そして、趣味ではないから、そのうえでどう継続させていくか。
ここは30年そのこととかかわってきましたので、
模範解答はないけれど、模索はずっと続けてきて、
答えもそれなりに出てきたからこそ、私も継続出来てきたと思っています。

まずは、なぎさんが今、作っていて喜びがあり、
お客様の心にも響く作品を確実に作って、選んでいただき、
ものづくりの原資を作ることが大切なような気がします。
その原資をもとに、冒険、チャレンジをしていく。
先輩方がおっしゃることも、結局はそういうことのような気がします。
まずは、社会とちゃんと握手できる作品展開をしながら、
そのよろこびを糧に、前進していく。
うまく書けないけれど、そんなことを思います。

今、この時代にこの日本で工藝にまつわるものづくりをすること。
と考えると、作ること自体に喜びを見いだせないのに、
ものをつくって発表することで天国に行こうとするのは、
かなり難しそうですね。
少なくとも私はそう思っているので、それを応援する力がないですかね。
けれど、ものを作っている時間こそ天国と思えるひと、
作ったものに天国があると思えるひとの仕事の中には、
精一杯伝える努力をしていきたいものがある。
と、あらためて思うのでした。

なぎさんが率直なメールをくださったこと(そして掲載を許可くださったこと)で、
同じようにもやもやしていた方に少しは霧が晴れたでしょうか。
進化したなぎさんの制作、楽しみにお待ちしています。