director's voice

滝沢 都さん 染織 長野

Q1
滝沢都さんは、「工房からの風」にどのような作品を出品なさいますか?

A1
手紡ぎ手織りのストールなどを出品します。

綿と亜麻(リネン)は素材を畑で栽培しています。
藍も栽培し、すくもに加工し醗酵建てして糸を染めています。

冬前なので、羊毛のマフラーも出品します。
素材そのものの色を活かしたり、植物で染めた羊毛で織っています。

羊毛は恵みを与えてくれる羊そのままに、空気を含んであたたかく優しい素材です。

綿も植物のそのままに、強く潔くまたとても柔らかい布です。
同じ畑で育った藍との相性は何より合っていると思います。

亜麻は小さな青い花を咲かせる一見たおやかな植物ですが、繊維は強く光沢があり、とても面白い素材です。

各々の素材に、それぞれの可愛さや魅力があります。ぜひ手に取って感じていただけたら嬉しく思います。

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Q2
ご自身の工房の中で、特に大切にしている場所、あるいは部分、印象的な場所、空間、または、道具の写真を1カット撮ってください。
そして、その説明をお願いします。

A2
私が織っている布のすべての糸を、この糸車で紡いでいます。
沖縄の工房にいた頃に、南風原の機作りの大城さんに作っていただいたものです。

染織といっても、私にとって織っている時間はわずかです。
畑仕事も繊維取りも染めも時間がかかりますが、なんといっても糸作りをしている時間が一番長いといえます。

左手に繊維の塊を持ち、右手でこのハンドルを廻すことで、糸が少しずつ紡がれていきます。
窓の外に見える日々移ろう季節を眺めながら、時に膝に猫をのせながら、ひたすらに糸を紡ぐ時間は、とても大切なものになっています。

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Q3
滝沢都さんにとって、ものづくりの種火ともいえる、きっかけや動機、大切な人や物との出会いについて教えてください。

A3
銅版画を夢中で制作していた学生時代に、石牟礼道子の文学作品に出会ったことが、私にとっての大きな出来事でした。

『椿の海の記』について池澤夏樹がこう書いています。

「明らかなのは、この作品は読んだ者のものの感じかた考えかたを変えるということだ。
我々はこういう豊かな世界を失って今のこの索漠たる社会に生きている ということである」

私は石牟礼作品に出会うことで、ものの感じかた考えかたが変わり、生き方を変えざるを得ませんでした。
その後、芭蕉布に出会いその美しさに打たれ、染織の道に入りました。

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「工房からの風」を始めた想い、続けてきた想いには、
作品はひとつの姿であって、その姿がすべてではない、ということがあります。

念のために言えば、作品は作品として力があればよいので、
その背景なんて意味がない、という考えもあるかもしれません。

作り手として、想いに寄りかからずに、実りの形に全力を注ぐ姿勢はすばらしいと思います。

けれど、受ける側、使う側、感じる側としては、それだけではとてももったいない。
なぜなら、現代において、個人や少人数で誠実なものづくりを続けていこうと思えば、
ぼんやりなんてしてはいられず(チコちゃんには怒られなさそう)、
思考、哲学が必ずあると思うからです。
(思う、というか、企画者としてそういうものにいつも触れさせてもらってきた、という方が正確ですね)

その思考や哲学に触れることも、何かを選んで購入して使うということと同様に大切で、そういうこととの出会いの場を創りたい、続けたいと思ってきたのでした。

と、ちょっとまじめに語ってしまいました・・。
滝沢都さんの布には、布としての魅力だけではなく、その背景、ひとつひとつの制作過程、行為に意味、愛、があるのだと思います。
その意味や、愛を感じていただくことは、布を前にしたときに、自分に似合う、似合わない、ということを超えて豊かなことと思っています。
(似合う、似合わない・・というお見立ても楽しいですけれど!)

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滝沢都さんの出展場所は、手仕事の庭の花壇に面したところ。
奇しくも銅版画の岩田圭音さんのお隣。

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