Q1
「工房からの風」への出展作品についてお尋ねします。
旅する羊、猪又裕也さんの代表的な作品、または、定番的な作品、作り続けている作品の中から、ひとつをご紹介ください。
A1
縫い付けたバンドに通して留めるショートマフラーです。
活動を開始した2020年以来、様々な色や柄で作り続けています。
お客様との「長くぐるぐる巻くの疲れちゃうのよ」というやりとりをきっかけに、それであればうんと短いマフラーを作ってみようとデザインしました。
留め方について、切り込みや異素材を避けようと思いバンドに通すスタイルに至りました。
織り工程でマフラー本体に続けてバンドを織るため裁断不要で無駄が出ず、端の処理は固くなる結び目を作りたくなかった中でニードルパンチの技法に行き着き、羊毛らしいふわふわの表情が生まれ、結果的にそれらがこのショートマフラーの特徴となりました。
ふわっと軽い手紡ぎ手織りのホームスパンが更に軽く、それでいて空気を含んだ暖かい1枚です。
地元岩手では、寒い朝の台所仕事や、車移動のお出掛けなど、暮らしに合わせて楽しんで下さる方が多く感じます。
Q2
もう一つ作品について教えてください。
今回、特に見ていただきたい作品はどのようなものでしょうか。
新作や、今特に力を注いでいる作品についてひとつをご紹介ください。
A2
無染色マフラー『土竜のあしあと』です。
ホームスパンと出会い、後の師となる盛岡の老舗・中村工房さんにて、生まれて初めて紡いだ糸で初めて織った第1作目のマフラーを再現した1枚です。
当時全く思うように行かない糸紡ぎながら、楽しくてとにかく夢中に紡いで生まれたぼこぼこの糸。
この1作目は何か味のある表情で、不思議とお客様の目にも留まるマフラーでした。
特に前回出展した第20回工房からの風であるお客様から「生き物みたいですね」という、私にとって目の覚めるような言葉を頂きました。
腑に落ちる形容を得つつ、でもなぜそう思わせるのかはわからないままの数年でした。
しかし、今年の初め「全く同じものを」というオーダーのおかげでようやく本気で向き合いました。
観察し計測し手を動かして記憶を辿り、行き着いた答えは、作り手の“夢中”を纏うと心惹く引力が生じるということ。
そこには技術の高低によらない、“想い”が介在し脈打つのではと考え至りました。
1作目の姿を踏襲しますが、カタチをなぞるのではなく一心に意識を注ぐ真剣な対峙、そんな作り手としての芯を体現する手紡ぎ手織りのマフラーです。
Q3
旅する羊さんの「工房」で印象的な「もの」をひとつ教えてください。
A3
手書きのある、織り機と紡毛機です。
織り機は、技術を一から教えて下さった盛岡の中村工房さんから独立の際譲って頂いたものです。
引き取りの朝、先代である3代目からメッセージが記されていました。
千葉からの移住者である私にとってまさしく岩手の父で、精神的にももちろん制作面でも常々支えとなっています。
紡毛機はニュージーランドのMajacraft製で、出荷品全てに担当の方のサインが記されています。
家族経営の小さな工房ですが、地元のリム材にこだわり考え抜かれたデザインは美しく、使い手の意を汲む抜群に紡ぎやすい1台で、そこに何か包み込むような愛を感じる紡毛機です。
それぞれ送り手の想いが籠った道具たちに支えられ、日々豊かなモノ作りをさせて頂いております。
盛岡、中村工房の3代目、中村博之さんには、私も仕事を始めた1980年代後半から90年代にかけて、大変お世話になりました。
工房からの風の初期には、楽しみに見にきてくださっていました。
およそ20年経って、猪又さんがこの場に作家として立っていることをきっと喜んでくださると思います。
ぜひ、よいお仕事を見せていただければと思います。
旅する羊、猪又裕也さんの出展場所は、ニッケ鎮守の杜、おりひめ神社のほとり。
ホームページはこちらになります。
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工房からの映像もぜひご覧ください。
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