かごの制作に使用する根曲り竹(チシマザサ)は、雪深い地域に自生します。
冬の間、深い雪に守られるように地面に倒れ越冬し、雪解けとともに少しずつ起き上がるため、雪の重みで折れないようにと初めから根元が曲がり、強くしなるのが特徴的です。
森の中には沢山の出会いがあって、整備をしながら斜面を奥へ奥へと切り開くたびに、ここにはこんな竹があったのかと嬉しい気持ちに包まれます。
「すらりとした竹はあのカゴに良さそうだ」
「この細さと長さがあれば、持ち手に使えそうだ」
「ズングリむっくりしているが練習になら使えるんじゃないか」
「目の前にある竹を活かすにはどんなかごが作れるのか」
そんなことを思いながら山の中で竹と向き合うひと時が何よりも好きです。
私と山を繋いでくれたのは、戸隠の季節の巡りと共に訪れる山仕事とそれを続ける竹細工の職人たちでした。
雪が深々と降る2月の早朝、手製の弓矢を手にやってきた職人たちは、神事が終わると矢を放ちながら
「良い竹が生えますように」
「山で熊に会いませんように」
「ケガをしませんように」
と口々に言って竹の成長と1年の山仕事の安全を祈願し、初夏には誤って筍が採られないように成長するまで毎日交代で山の中を巡回して守り、
秋には竹採りのための道づくりを職人総出で行い、いよいよ竹採りが始まります。
「山の口(やまのくち)※解禁日」が設けられ、作るかごと部材ごとに採る時期や藪を変えながら、適した材料を適したタイミングで採ることが伝わっています。
そして山仕事が終わる頃、「山の神様」に一年の無事を感謝しながら神事を執り行います。
この一年の巡りは、先人たちが技術とともに山と竹を守り、次の代へと繋ぐために行ってきたものです。
戸隠の人たちにとっては当たり前のことでしたが、私の中にとても特別な機会を貰って山に入れているのだという気持ちが湧いていました。
山があり、森があり、雪が降り季節が巡るからこそ根曲り竹がある。
そして、竹を仕事にしながらも、竹と共存するために続ける山仕事がある。
間近で体感した営み全てが、戸隠竹細工を作っています。
その中で、根曲り竹の力強さと、朗らかさをかごと共に届けることができたなら、竹細工という仕事をしていてこんなに幸せなことはないなと思いながら制作をしています。
戸隠かごや 朗々 -rou rou- 西濱芳子さん
風人テント(ニッケ鎮守の杜・手仕事の庭花壇の奥)で、4作家からの文章をご紹介いたします。
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