director's voice

旅する羊・猪又裕也さんからのことば

「凪ぐ浜の宝物」
嵐の去った後の浜辺にきらりと光る宝物のような想い、言葉。
稲垣宛に届いたメールの一部を、10作家ほどご許可をいただいて皆様と共有していきます。

岩手県雫石でホームスパンの手織布を制作する旅する羊の猪又裕也さん。
ニッケ鎮守の杜、おりひめ神社の脇に出展くださいました。
糸車で紡ぎもしながら制作のお話しもしてくださっていた猪又裕也さん、メールの一部をご紹介しましょう。

屋外での展覧会ゆえ、往々にして雨は望まない気持ちになりがちですが、今回の『工房からの風』を迎えるにあたっては、不思議と天候に対してネガティブな感情は生まれませんでした。

鎮守の杜には雨によって歓ぶ木々や草花がいて、そんな彼らを歓ぶ人々がいるからかもしれません。
日も雨も恵みと歓ぶあの杜に、居ることが叶うことこそが1つの達成と、自然と思えていました。
そんなことは初めてで、これも何かおりひめの御祭神のはからいなのかと感じずにはいられませんでした。

およそ10ヶ月前、自身2回目の出展が決まり、またあの空間に作品と身を置けることの幸せを噛み締めながらの準備期間が始まりました。
工房では羊毛と向き合い、ひと紡ぎをひと織りをただ直向きに重ねつつ、一方で手漕ぎ舟のように進む方向に対しての不安の感覚を常に孕んでもいました。

そうして迎えた『工房からの風』。
いざ開幕すると3年前の出展時にご購入くださった方や、印象に留めていてくださった方、また別の出展でご購入や知ってくださった方々が、「今回の出展を知って」と訪れてくださったことが多かったことが印象的で、実は想像していなかったことでもあり、本当に嬉しかったです。
更に初めてのお客さまとも多く触れることができ、羊毛に対して、ホームスパンに対して共感することができ、大きな歓びを感じた2日間でした。

抱いていた熱量も不安も分け隔てなく受け入れられた思いで、そっと掬い上げられるような多幸感に溢れていて、奥底から感謝が滲み出ました。

終わった今、展覧会に足を向ける思いと準備をして迎える思いのこの交わりこそが、稲垣さんの仰る作り手と使い手と伝え手の交流が興る磁力のある場なんだと、実感を伴って自分なりに解釈の解像度が上がった気がしております。

そんな場を設える企画運営の皆さま、本当に素敵な杜を司る庭人の皆さま、影に日向に奔走し誰をも支える風人の皆さま、ご来場のお客さま、共に出展を果たした皆さま、他にも私の思いの至らない所で関わりを持たれた皆さま全てに感謝いたします。

2年後、鎮守の杜でまた歓びを分かち合えるよう、ここから一つ一つ重ねて参ります。
その日を楽しみにしております。
この度は、本当にありがとうございました。

旅する羊・猪又裕也

おりひめ神社のお社の脇というのも、ぴったりでした。
朗らか、爽やかな笑顔で、糸のこと、織のこと、雫石のことを話していらした猪又さん。
いつもブースには、人と笑顔が満ちていましたね。

旅する羊・猪又裕也さんの出展前のメッセージも是非ご覧ください。
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