director's voice

瀬川辰馬さん(陶芸)

今年の「工房からの風」まで、いよいよ3週間となりました。
今日から今年の出展作家のご紹介を始めていきますね。

ちょうど昨日、お目にかかった方から
「そろそろ作家紹介が始まるかしら?って、ブログを見に来ていました!」
と、うれしい言葉をかけていただきました。
(ありがとうございます)

この場は作家紹介ブログなのですけれど、
ただ単に私からの質問に対しての作家の答えを掲載する場合もあれば、
出展が決まってからの約半年、そのやりとりの軌跡のようなものを
垣間見ていただける場合もあります。

「工房からの風」への出展を通して、作家がどのようにご自身をみつめ、
どのように考え、手を動かし、形を作っていったのか。
結果だけではなくて、経過が人の営みには大切なんだなぁと、
「工房からの風」を続けながら、私も学ばせてもらっています。

そんなこんなも感じ取っていただきながら、
純粋に素敵な作品写真に喜んでいただいたり、
最後の質問にくすっとしていただいたり、、、、
50人(組)の出展者や、
ワークショップなどで関わってくださる20名の方々からの
メッセージをぜひこの3週間、お楽しみいただけたらと願っています。

どなたからご紹介しましょうか。
昨年と同様、「風の音」に文章を寄稿いただいている方から始めましょう。
(「風の音」は現在鋭意編集中!
当日、本部テントでご入手くださいね。
無料ですが、数に限りがありますのでお早めに!)

では、さっそくおひとり目を。
陶芸の瀬川辰馬さんです。

Q
瀬川さんは「工房からの風」に、どのような作品をお持ちくださいますか?

A
皿やボウル、花器などのうつわを200点ほど展示・販売する予定です。
うつわを制作するうえで強く心がけていることとしては、
それらが根源的には「命を抱き留める道具」であるという点です。

動物にしても、植物にしても、生きたままではそれを食卓に並べることはできず、
狩られ刈られることで初めてうつわの上に並び、それを握って人は生きていきます。
私は、食べるもののためだけにつくられたうつわを傲慢だと思いますし、
また食べられるもののためだけにつくられたうつわ
(そんなものがあるとすれば、ですが)を寂しいと感じます。

それを握るものの悦びのためにあるのと同時に、
それに抱きとめられるものへの祈りのためにあるような、
そんな大らかで静謐なうつわを紡ぎたいと願って、制作を続けています。

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瀬川さんの器はとても静かです。
でも無音ではなくて、清流のせせらぎや、しんしんと降り注ぐ雪の調べのような、
「ないようである」美しい必然の波長のような静かな器です。

もっともそれは、単なる自然物や自然現象から生まれてきたものではありませんから、
その器も人工物に違いありません。
それでも、無音ではなく美しい調べが感じられるのだとしたら、
そう奏でようという作り手の確かな意思があるのだと思います。
その意思自体の静かな深さが、器の姿になっているのでしょうか。

(私は大ぶりなオーバルと丸いお皿を愛用しています。
いつもの料理を盛っても、なんだか凛として、澄んだように心に映るので、
とても気に入っているのです。
今度撮影できたら、ここにもお載せしますね)

Q
瀬川さんにとって「工房からの風」は、どのような風でしょうか?

A
私が普段作業をしているアトリエは、
築年不詳の精肉店を改装した建物の一階にあります。

建設時の衛生面での配慮だったのか、
それとも歴代の入居者が改装していく過程でのことなのか、

アトリエには開閉のできる窓がひとつもなく、
空調は専らエアコンに頼っています。

建物の一面すべてがガラス張りになっているので、
光は気持ちよく入ってくるのですが。

風は、殆ど通らないアトリエです。

その風通しの悪いアトリエで、うつわという道具について、
随分と長いこと独りで考え、また手を動かしてきました。
今思えば、黙々と地面を掘り起こし、
余分な根を取り除いていくような時間でした。

そうして耕していた土の上に、この一年程で、
ぽつりぽつりと芽が出てくるようになったと感じています。

自分が理想とする、うつわという道具のはたらきが少しずつクリアになり、
またそれに具体的なかたちが伴い始めました。

そのような時期に、工房からの風にご縁を頂きました。

稲垣さん、風人さん、出展者の方々との対話の時間は、
私のアトリエに吹く新鮮な風そのものでした。
これまで黙々と独り培ってきたものを、風通しのよい場所に移し、
育むような半年間であったと感じています。
本当に、多くの恵みを頂きました。

当日は、この半年で少し背が伸びたその芽を、
来場者の方々にも気持ちよくお見せ出来ればと思っています。

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このメッセージを読みながら、
梅雨のある日、初めて降りた私鉄沿線の駅をさまよいながら、
瀬川さんの工房をお訪ねした日のことを思い出しました。

『随分と長いこと独りで考え、また手を動かしてきました。』

たしかにその工房には、深い思考と試行の時間がたゆたっていたように思い出します。
その後、幾度か風人さんたちも交えながら交わした言葉は、
ものづくりのことにとどまらず、藝術のこと、文学のこと、
もっといえば生きることについてまで広がる豊かな会話となりました。

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『新鮮な作り手たちは、時代の中で果実のように生まれてきます。』

「工房からの風」を始めた16年前から伝え続けてきたこのフレーズ。
今年出会った27歳の瀬川辰馬さんを、まさにその果実のように思っています。

想いを正確につかもうとすること。
それを正確に言葉にしようとすること。
そう、その正確であろうとする姿勢に、私も教わることがとても大きかったのです。

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慶応SFCで先端の学びを経たひとが、
東日本大震災を機に、陶芸の世界へと進み、
今手元にある確かな素材と手を用いて、
ものを生み出す世界への扉をひらく。

瀬川さんの陶芸は始まったばかり。
きっと、作品の姿はぐんぐん変化していくことでしょう。
それでも、今掴んでいる物種は、
すでに瀬川さんが求めているそのものなのだと思います。
あせらず、取り繕わず、その物種が実るべき方へと、
瀬川さんの時間が紡がれることを心より応援したいと思います。

2016年秋の日現在の瀬川辰馬さんの実りの姿、
その器がとても楽しみなのです。

Q
お名前、あるいは工房名についての由来、またはエピソードを教えてくださいますか?


辰年生まれに、父親の名前の「篤樹」から一字もらって、
元々は「龍樹」と名付けられる予定でした。

ですが、調べてみると「龍樹」というのは2世紀のインドに生まれた
大変立派な仏僧「ナーガルジュナ」の漢訳名だということで、
これではあまりに畏れ多いと判断した父親によってボツに。

最終的には龍を辰の字に代え、「篤樹」から馬の字をもらい、
「辰馬」と名付けられました。
父が辞書を引く習慣のあるひとで、本当によかった。

辞書を引く習慣、すばらしいですね。
きっと瀬川さんにもその習慣が引き継がれているような。。。

瀬川辰馬さんの出展場所は、おりひめ神社の奥。
studio fujinoさんが隣です。
瀬川さんのサイトはこちらになります。
→ click

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と、今年もおひとり目からかっとばしてしまいました。。。
director’s voice
これから怒涛のブログアップの日が続きます。

written by sanae inagaki