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こるぬこぴあ(こぎん刺し)

Q1
石川県から出展くださる「こるぬこぴあ」さん。
「工房からの風」には、どのような作品を出品されますか?

A1
こぎん刺しの技法と伝統的な模様を用いた作品を出展します。

津軽こぎん刺しは、青森県の津軽地方に伝わる伝統工芸です。
江戸時代、東北地方は冷害による飢饉に苦しめられており、 倹約令で、農民は普段着として麻の生地、木綿の糸以外の使用を禁止されていました。
厳しい冬の寒さを乗り越えるため、また擦り切れた衣類を補修して大切に一生涯着るための工夫・生活の知恵として、こぎん刺しは誕生しました。

家の女性たちは冬の手仕事として暗くて寒い冬の間、月明かりと手の感覚を頼りに家族のために一針一針こぎん刺しを刺し綴りました。
それは嫌々させられた苦しい仕事ではなく、模様の美しさを競うようにしてたくさんの種類の模様が生み出され、楽しまれたといいます。 ⁡

こぎん刺しは明治以降鉄道の普及により物資に困らなくなったことで一度途絶えますが、 昭和初期の民藝運動によってもう一度手芸的に盛り上がりを見せます。 ⁡

工房名「こるぬこぴあ」は、cornu copiae (収穫祭などで飾られるオブジェ。豊穣、豊かさの象徴)を意味しています。
貧しく制限がある中で、美しいこぎん刺しを綴った当時の人々の心の豊かさに想いを馳せ、物資的に豊かな現代にあるこぎん刺しの姿を、時代の流れも汲みつつ自分なりに考察して、作品の形を工夫しています。

耳飾りは季節を楽しめるような色づかいにこだわっています。
こぎん刺し発祥当時は藍色の布に未晒し糸の使用のみ許されていましたが、今は禁止がないので、色を楽しみたいと言う気持ちを込めています。
また、こぎん刺しは裏側には表とは白黒反転した模様があらわれますが、小物に仕立てるとどうしても裏側は隠れてしまいます。
「こぎんは裏も美しく」と言って、裏側の模様もとても素敵なので、耳飾りの右と左で表と裏を表現しました。
形は吉祥模様の亀甲にちなんで六角形です。

こぎん刺しは名のある職人の仕事ではなく、名もなき女性の家庭の仕事でした。
そのことを、有名で光り輝く宝石ではなく、身近にあって個性的で魅力ある小石に例えて、可愛い形の石を探して拾い、型をとってブローチや帯留めに仕立てました。
使う素材を有機素材にこだわり、石が来たところに還れるようにと遊び心もプラスしています。

元々コースターやアクセサリー置き場などの敷物としてイメージしていましたが、使うのが勿体無いとのユーザー様からのお声が多く、壁にも飾れるデザインを考案しました。
使う時も仕舞う時も美しく空間と生活を彩ります。

Q2
こるぬこぴあさんが、工房で大切な、あるいは象徴的な、あるいはストーリーのある「道具」について1点教えてください。

A2
針刺し、こぎん針、指貫。
この3点でこぎん刺しの道具は以上です。
とてもシンプルかつコンパクトで、場所を選ばず針仕事ができます。
この小さな道具から生み出される無限のこぎん刺しの柄、模様。
布と糸、時間が許す限りずっと刺し綴ることができる…そのギャップが個人的にグッとくるポイントです。 ⁡

Q3
こるぬこぴあさんのお手持ちの「工藝品」で愛用、または大切にされているものついて1点教えてください。

A3
漆芸家の名雪園代さんのえんぴつキーホルダーです。
約10年愛用しているのでもうだいぶ使用感があり…

大学生だった時、下校中に金沢市内のクラフトイベントにふと気がついて、なんとなく立ち寄りました。
当時、一般の国立大学に通っており「よく勉強して、進学して就職する」という道しか知らなかった私は、工芸作家として作ったものをこのように展示したり、販売したり…
そういう世界があることをその時初めて目の当たりにして、そしてなんだかワクワクドキドキビビビと来た感覚がありました。
今でもその時のことを思い出すたびにこの感覚が蘇ります。

所持金がない中色々と作品を見て周った中で、このえんぴつキーホルダーはリーズナブルで買えるお値段でした。
名雪さんが「漆の箸を作る時に切り落とされた端っこで鉛筆を作っているんだよ。漆だから塗れないよ、ふふふふ。全部一緒に見えるけど、微妙に違うからお気に入りを選んでね」と声をかけてくださり。
「漆って高級品だと思っていたけど、こんな可愛い形で、私にも買えるお値段で手に入ることもあるんだなぁ」なんて考えながら一生懸命選んで購入した思い出です。
作り手として、この時の買い手の自分の気持ちを大切にしたい思いで、ずっと大切に愛用しています。

『小さな道具から生み出される無限のこぎん刺しの柄、模様』

こるぬこぴあさんが手がけるこぎん刺しは、どんな風にひろがっていくのでしょう。
こぬるこぴあさんの出展場所は、ニッケ鎮守の杜、稲荷社の脇。

今度は、こぬるこぴあさんの展示と出会って、進路、人生が変わって、開かれていくひとが現れるかもしれませんね。

こぬるこぴあさんのインスタグラムはこちらです。
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