director's voice

豊田陽子さん(染め布)

Q1
2017年に出展くださった豊田陽子さん。
今回の「工房からの風」に、どのような作品を出品されますか?

A1
手染めのものを中心に、その他、水彩で描いたデザイン画をもとに京都の染色工場でプリントしたテキスタイルを使ってストール・スカーフ・お洋服に仕立てたものを出品します。
また、バンダナなどの小物や暖簾も数点ですが出品する予定です。

普段は綿や麻などの素材を染めることが多いのですが、ウール素材はそれらと比べて使用する染料も生地の反応も変わるので、わたしにとってはコントロールが難しいのですが、今回は制約のある中でチャレンジしてみることで新たな扉が開けるかも?と悩みながらも楽しく、制作しました。

また、ここのところしばらく春夏の色味を染めることが多かったので、自分の中にある秋冬の季節の色を引き出しから引っ張ってきた感覚がありました。

まだ暑い最中に染めはじめ、今はもうすっかり肌寒い季節になり、景色を彩る色彩もかわり、そんな季節の空気のようなものをふわりと身につけられたらと思い、制作しました。

Q1 -1

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Q1-2

Q2
豊田陽子さんの工房の中で、特に大切にしている場所、あるいは部分、印象的な場所、空間、または、道具の写真を1カット撮ってください。
そして、その説明をお願いします。

A2
作業場の机(板)です。
1220mm×2200mmの大きな作業台なのですが、これを小さなアトリエにどーんと置いて染め作業をしています。
染めの工程や技法によってこの作業台を使ったり使わなかったりなのですが、この作業台にしてから8年くらい経ちます。

はじめは真っさらなきれいな板だったのですが、作業の成功や失敗、喜びや悔しさなどがこの板の上で繰り広げられ、色々な染料のシミや傷やらが少しずつ積み重なっていき、長い年月をかけてこのような模様(シミ)の台になりました。
自分が意図してつけた模様ではないのが面白く、これからもどんな風に変化していくのか楽しみです。

Q2

Q3
豊田陽子さんが自作以外で、大切にされている、あるいは、愛用されている工藝品をひとつ教えてください。

A3
染色の仕事をする前から工藝品は好きで、沢山持っている方かと思います。
現代の作家ものだと沢山ありすぎてあれもこれもと選定することが難しいので、他とは違う意味で大切にしているものです。

この花器は、祖母から母へそして私が結婚して長野に来るときに母から譲り受けました。
花器の底には「昭和五一年 四月一二日 母より頂く かね子」と、墨なのかマジックなのか、祖母の字で書かれています。
それが祖母らしくてこの花器の底を見るたびに笑ってしまうのですが、これは曾祖母が買ったものなのか、もしくは曾祖母も誰かから譲りうけたものなのか、どこのものなのか全くわかりません。

母もわからず、祖母はもう亡くなっているので解明しようがないのですが、長い年月をかけて世代を超えて私の手元にきたこと、私の知らない遠い昔に思いを馳せたり、ちょっと可笑しくて、なんとなく不思議で何にも代えがたい愛おしい花器です。

Q3 (1)

花器のお話し、とても素敵ですね。
大切に作られたものを、大切に使う。
そして、その遺されたものを、大切に引き継ぐ。
「工房からの風」に出展されるものは、それに値するものなのではないでしょうか。
豊田さんの作品の行く末にもきっとストーリーが生まれますね。

豊田陽子さんの出展場所は、ニッケ鎮守の杜に入ってすぐの小高いスペース。
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