director's voice

chichi(布フェルト)

Q1
3回目の出展となる布フェルト作家のchichi(シシ)さん。
「工房からの風」には、どのような作品を出品されますか?

A1
布地に羊毛繊維を重ね、お湯と石鹸を使って縮絨する「布フェルト」の装いのアイテムを作っています。
柔らかな空気を孕むウェアは軽くあたたかく、身体と心を包んでくれます。

繊維素材は多くの場合、糸に紡ぎ織られたり編まれたりして私たちの生活の中にありますが、フェルトは紡ぎや織りの工程なしに、羊毛繊維が本来持つ絡み合う性質を使って作られた布です。
織機や手道具を介さず、自らの手のひらを使って布や立体を作り出す過程は、常に繊維と一緒に呼吸し、対話しているような気持ちに。

手のひらの感覚を研ぎ澄ませながら、羊毛を重ね縮めている時、繊維1本1本がそれぞれ意思を持っているようにも感じられます。
バラバラだった繊維が手の中で動いていくようで、私の感覚も生き生きとしてくるのです。

羊毛繊維は手のひらの摩擦と振動により、布地のわずかな糸の隙間に入り込んで、吸い付くように絡み縮んでいきます。
徐々に生まれてくる豊かなしぼは、投げかけた言葉に素材が答えてくれるような感覚。
何よりこのウールの力に魅了されています。
現れたテクスチャーは身に纏うとより一層美しい陰影を見せてくれます。

ウェアにおいてはフェルティングでしか表現できない優しくぽってりとしたフォルムを実現するため、縮絨と縫製の仕方に独自の工夫を持たせています。
一般的な服作りとは異なるchichiの布フェルトウェアの魅力のひとつです。

繊維造形の世界に入ってだいぶ経ちますが、気がつくと「布フェルト」の独特な色と質感の世界に夢中になっています。
ぜひ直にご覧いただけますように。

Q3
chichiさんのお手持ちの「工藝品」で愛用、または大切にされているものついて1点教えてください。

A3
その土地の人が自らの手や指で天然繊維を編組しつくり出す、その行為、構造が見えるものに惹かれます。

織りをはじめ、編み、組み、絡める、巻く、結ぶ、縒る、糸を刺すなど、日本国内はもちろんアジア、アフリカの手仕事には目がありません。
ひとつひとつの素材を知ることで生み出されてきた作り手の工夫、その想いや手の温もりが感じられ、ものづくりをしていて励まされたり学ぶことも多いです。
私にとってとても自然に馴染み、寄り添ってくれる存在です。
その類いで大事にしているものが幾つもあり、その中から中国の棕櫚刷毛を選びました。
私を繊維造形の世界に導いてくれた恩師から、20年近く前にいただいたものです。

一番の魅力はこの棕櫚をおさえるように一定のリズムで刺した糸目と、それに伴い束ねられる繊維の美しさ。
よく見ると、同じ棕櫚の繊維を縒り合わせた糸で刺しています。
もちろん私たちのよく知っている棕櫚縄ではなく、うんと細い棕櫚糸。
この固く強靭な繊維を細く縒るなんて考えも及びませんが見事なこと。
棕櫚皮の本来持つ繊維の流れや構造を利用しつつ、密度と強度を考慮し尽くされた手仕事です。
糸の隙間に斜めに交差するように流れる繊維の束にうっとりとしてしまいます。

また、棕櫚自体に油分があり水にも強いので本来の用途としては表装の仕事に使うようなのですが、私は時々卓上の掃除や籠の手入れに使っています。

日本でもたわしやほうきなど棕櫚製の優れたものがありますが、多くは耐久性の高いエナメル線などで束ねた仕立てですね。
ここまで繊細な棕櫚の道具にはまだ出会ったことがありません。
やはり棕櫚の本場の手仕事なのだと感じています。

chichiさんの映像もインスタ版を既に公開しています。
(まもなく、もう少し長いyoutube版も公開予定です)
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chichiさんの出展場所は、ニッケ鎮守の杜に入ってすぐ左手の小高い丘のようなところ。
お天気がよいと、空間に伸びやかに美しい布フェルトの作品がたなびくことでしょう。

chichiさんのインスタグラムはこちらです。
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