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月別アーカイブ: 5月 2020
director's voice
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船ではなく小舟で
新緑の眩しい季節となりました。
ニッケ鎮守の杜の梅の木には、青梅がりんりんと実ってきました。
千葉県でも緊急事態宣言が解除されました。
このお庭も閉園が解かれて、憩いの人々が行き交うようになっています。
募集の時点では思ってもみなかった社会状況になって、
「工房からの風」も、常にさまざまなことを考えながら進んでいます。
さまざまな工夫や皆様へのお願い事も生じるかとは思いますが、
現在、開催のために企画を進めております。
+++
企画を進める中で、スタッフそして風人(かぜびと)さんたちとzoomミーティングやメール、電話でのやりとりを重ねています。
風人さんというのは、出展経験がある作家の方で、企画や当日のサポートをしてくださる方々です。
その中で、とても印象的な話がありました。
船にまつわる話です。
4月、例年では出展作家の「第一回全体ミーティング」を行っていました。
出席の義務はないのですが、例年9割以上の作家が万障繰り合わせて出席されます。
10月に向かっての入学式(学校ではありませんが!)や船出、出航式に捉える方もいらっしゃいます。
実際、この日に「はじめまして」を交わした作家同士が、切磋琢磨をする中で、ものづくりとして長く佳き関係を結んでいくことが多くあります。
+++
今年の「第一回全体ミーティング」では、「工房からの風」を島にたとえてみようと思いっていました。
この島は、こんな様子ですよ、こんなことが行われていますよ、こんな出会いの可能性がありますよ、と・・・。
そして、その島に向かうための準備の仕方、スケジューリング、島にたどり着いたときに有効なことがらをお伝えしようと思ったのです。
17回と会を重ねましたから、島でのことはおおよそお伝えできると思ったのです。
(もちろん、慣れることはなくて、毎回様子は異なってはいるのですが)
ところが、今年の島の様子を思い描くことができません。
島への想いはしっかりとあります。
けれど、経験したこののない新型ウィルス感染症が、10月の開催時にどうなっているのか。
予測がつかないからです。
開催に向かって準備をしていますが、いつも通りの運営はおそらく難しいことでしょう。
何を、どのように対策して臨むのか。
それによって、何がどう変わるのか?
企画者の想いだけではどうにもならない要素が生じています。
風人さんとのzoomミーティングの時のことです。
「工房からの風」に向かう船への乗船券を、選考通過の作家にお渡ししましたけれど、
ほんとうに船に乗りますか?
とあらためて尋ねないといけないのではないだろうか?」
その私の言葉に異を唱えたのは、風人のNさんでした。
「工房からの風」に向かう時、私は連れて行ってくれる船に乗り込む気持ちはなかったです。
プロ、もしくは明確にプロを目指している作家であれば、ひとりひとりが船頭のはず。
小舟を自ら漕ぐ覚悟がなければ、プロとして作家にはなれないだろうから」
これは、私の中で大きな意識革命!となりました。
毎年、50名の作家を「工房からの風」の搬出までの時間を共にする中で、面倒をみるお世話係的な気持ちが生まれていたのかもしれません。
50人ともなれば、実にさまざまな方がいますから、なかなか手のかかる!(失礼!!)方もいて、どこかでその方に合わせて進行を考えてしまうこともあります。
同じ工藝作家であり、出展作家でもある人の言葉は重みがありますね。
むしろ同じ「船」に乗ってもらおうだなんてことが、そもそも失礼でした。
皆さん自ら櫂を持って漕いでいるのですから。
だとすれば、私がすることはなんだろう。
そう考えた時、島に向かって水先案内人としての役割を今一度整えること。
そして、今年の島はいつもと同じ状態ではないかもしれないこと。
航海中には時化や嵐に出会うかもしれないことをお伝えすることだと思ったのでした。
+++
島と舟のたとえを交えた私からの投げかけに、44組の作家が前向きに参加の意向を示してくださいました。
50組の内6組の方は、地域性やご家族の属性、関係性などで、今年の出展を辞退されました。
それぞれのご事情があって、きっと悩まれた果てのご辞退だと思います。
いずれ機が熟してご一緒出来る日が訪れることを願っています。
正直、もっと多くの方が見送られるかと思っていましたので、44組での構成はすごい厚みに思いました。
そして、多くの方々から、熱い、すばらしい思考、思索に基づいた丁寧なメールをいただきました。
以下に、幾つかのメールを一部抜粋して掲載させていただきますね。
船と島のたとえはとても伝わってきました。
今年のこの状況を思うと、正直なところ不安でいっぱいです。
不安が大きく膨れ上がり、ぐらぐらと迷っていた時期もありました。
が、いつも未来は不確定で不安なものです。
だからこそ惹かれ、未来へと進みたくなるのだと思います。
私の船は、まだ進みは遅めですが、もう島に向けて動き出しました。
たどり着く島が定まらないことは承知の上です。
ひとつひとつ自分にできることを進める以外に私自身には選択肢がありません。
ともに進む仲間がいるのなら荒れた航海も乗り越えられそうです。
動き出したあとの過程が実りある積み重ねになることを確信しています。
出展希望です。
(ガラス)
私の作るものは全ての人の生活必需品ではありません。
それでも暮らしの彩りに、誰かの暮らしの糧になるものを作れたら…と思い制作しています。
誰も体験したことのない、この今だから何か出来るのではと考えています。
大きなことではなくても、小さなことから、誰かの暮らしに灯りを灯したい。
まだまだ小さな船の主の私ですが、稲垣さんの船を先頭に他の船主の皆さんと海へ出たいと考えています。
秋、開催されるかは誰も分かりません。
それでも、私は皆さんにご覧頂けるよう、変わらず制作していきたいと思います。
手を動かし 頭を使い 日々の暮らしに感謝しながら…。
(その他ジャンル)
ぜひ「出航」させていただきたく存じます。
現時点では全ての環境下において誰にも先が見えない状況ですので
大小あるにしても荒波の中へ進まないといけないと思っております。
何も準備せず出航して、突然の嵐に巻き込まれると転覆しますが
「たどり着く島」への航路も凪では無いことが予測できることはかえって良かったと思っております。
その中でどのように船を漕ぐかは作家自身によるところが大きいので
荒波の中での漕ぎ方を模索しながら進む時期なのだと思いながら制作しております。
今までも比較的波が荒い海で小舟を漕いできたと思っておりますが
数ヶ月で一変した海に一人で浮かんでいるのではなく、
稲垣さんをはじめ、出航しようと思う作家の方もいらっしゃることはとても励みになります。
ですので先行きが見えず航海が難しい時期に「たどり着く島」へ向かう切符をいただいたことはとても心強いです。
世の中の流れが大きく変わり、工芸や手仕事のあり方、伝え方を見つめ直すことが必要になったタイミングで切符をいただいたことは素晴らしいご縁です。
「たどり着く島」がどんな状況でも今回の航海をぜひ経験させていただき、より成長できればと思っております。
(染織)
出航する先は、昨年初めてニッケルコルトンプラザに訪れて見たあの島では無いと覚悟の上での出航です。
嵐の中の航海を楽しみながら挑みたいと思います。
と言うのも、工房からの風に参加が決まり、1月のミーティングに参加してから、以前よりも自分の中でものづくりへの意識が高まっているのを感じています。
惜しみなく手を動かし、出しきる、向き合う姿勢が大切だという事を学び、出来上がる作品や観て下さった方の反応等もみて、この数ヶ月で変化を感じていました。
10月がどのような発表の場所(島)になるかわかりませんが、私としては工房からの風まで残された時間で、どんな物が自分から生み出せるか、見てみたい気持ちが勝り、挑戦を続けたいと思っております。
(ステンドグラス)
1月のミーティングの時の風人さんのおっしゃったお話が印象的で心に残っています。
“工房からの風が自分に期待してくれているのに、自分が工房からの風に期待してしまっていた”
私も、“この出展で潮目が変われば”と精神的に工房からの風に寄りかかっていたことに気付きました…
春に予定していた自身の出展も全てなくなって、今までいかに作品を人にお見せし、その反応を喜びにして自分の力に変えてきたのかに気付きました。
他が先にあって自分があるのか
自分が先にあって他があるのか
自分の価値を他の何かで計ってはならないよ、
制作のモチベーションを他に置きすぎてはならないよ、と
何度も教えてもらっているような気がしています。
10月の状況が読めない中開催に向けて動いてくださっていること、ありがたく思っています。今年の時勢を感じながら、今できる作品を作っていきます。
(布)
新型コロナの影響で春の展示予定はすべてなくなりました。
「工房からの風」まで、展示の機会はありません。
こんなに長く展示が無いというのは、新鮮で貴重な時間だと感じました。
今はそれを逆手にとって、すでに取り組み始めていたり、
この先やってみたかった新たな試みに向き合うと同時に、製作全般を見直す時間に充てることにしました。
次の10年の製作へとつながる挑戦です。
小さな芽の形でもいいので、「工房から風」の場でお見せしたいと考えています。
先の読めない状況の中、ディレクターとしてのご苦労をお察しします。
例えどのような形であれ、現実の場で開催される限り、大切な発表の場として参加させていただきたく思います。
(木工)
胸が熱くなりました。
これは、ほんの一部なのです。
心の成熟度がなんて高い方々なんでしょう。
「第一回ミーティング」をしていない中、未だ顔合わせが出来ていない方も多いのですが、既に「島」に向かって一緒に漕ぎ出している気持ちです。
状況を嘆くのではなく、状況の中での最善を目指すひとたち。
もちろん、正直に書けば、すべてがこのようなメッセージばかりではありません。
不安を多く綴る方もいれば、淡白な文章からはお気持ちが読み取れない方も数名はいらっしゃいます。
けれども、いろんな方がいるのが自然ですね。
それはいつもそうでしたし、一色ではないことが豊かさでもありますから。
それでも多くの方が、今までに経験したことのない社会状況の中で、考えること、哲学を深めることは、よいことなのだと思っています。
経験則や従来の常識にただ乗って進むのではなく、自らが漕いでいく力を蓄える。
それぞれが進むことで生じる波が、結果として周囲に、社会によい波動となっていく。
そんなことを希います。
そして、上に載せたようなメッセージを寄せてくださった方々の想いと実践が、よき連鎖になっていくといいなぁと思います。
不安も連鎖していきますし、希望も連鎖していきますね。
同じ連鎖であれば、実践を伴った希望が、今年の「工房からの風」を通して広がっていけるように、私たちは企画を進めようと想いを新たにしています。
この秋の「工房からの風」に向かって漕ぎ始めた44艘の小舟。
そして、風人さんたちと私たちスタッフ。
この航海が佳きものとなるように、そしてその実りが使い手の方々の喜びにつながれるように、どうぞ見守っていただけたらとお願いいたします。
航海日誌?的に、時々こちらも綴っていきますね。
そして皆様、このような中ではありますが、どうぞ心身お健やかにお過ごしくださいませ。
(画像は「ニッケ鎮守の杜」の今年の花や果実。
季節、季節を伸びやかに生きていますね)
庭日誌
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5月の庭の
細葉のエルダーフラワー。
6年程前に、ぶどうの隣に植えた苗が初めて花を咲かせてくれました。
ひっそりと静かに、大きくなって。
今年春にあたらしく庭に来てくれたエルダーフラワーの友達ができて、
きっと嬉しくて花を咲かせたのでしょう、と、大野さん。
コーディアルをつくります。
ペパーミントもたっぷり摘んでドライに。
らふとの部屋中ミントの香りです。
バラの花びらはポプリに。
ホタルブクロも咲きはじめました。
ムギワラナデシコ。
すっとした立ち姿で、花器にもいけやすいのです。
レモンの花の爽やかなあまい香り、写真からもお届けできますように。
庭日誌
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庭日誌
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庭と色 #1
今年は梅の実がもうこんなにあおあお、ふくふくです。
5月から6月に収穫し、夏の庭仕事の強い味方、梅シロップと梅干しを作ります。
梅干しをつくる際にできる梅酢は八重桜の塩漬けにも欠かせません。
梅のフルーティーな風味が加わるとともに、酸の力で八重桜がぱあっと鮮やかに発色するのです。
梅の色、と言えば、もうひとつ大切なストーリーがあります。
photo/RIRI TEXTILE
手仕事の庭では染色用に育てている藍やコブナグサのほか、
剪定した枝やたくさん収穫したハーブなどを、
ゆかりのある工藝作家、染織作家の作品制作にとりいれていただいています。
梅の剪定枝で染めた糸で、
美しい作品を織り上げてくださったのは染織作家 RIRI TEXTILE 和泉綾子さん。
RIRI TEXTILEさんは2016年工房からの風出展、
以来、風人さんとして共に企画をふくらませてくださり、
夏の暑いさなか庭人さんと一緒に庭のお手入れにも足を運んでくださいました。
講師をつとめていただいた、
摘みたてローズマリーやコブナグサでリネンスカーフを染めるワークショップでは、
お集まりいただいた皆様と、爽やかな色と香りに満ちた時間を愉しむことができましたね。
梅染め絹糸とアルパカウールのチェックマフラー
photo/RIRI TEXTILE
RIRI TEXTILEさんの手とまなざしを通して現れる、清々しき”庭の色”。
枝葉の内に秘めたる美しさにはっとする、続いてどこか懐かしい。
それはちかしい植物たちのあたらしい表情を見せていただいているような。
工藝作家の方々が集ってくださるこの庭だからこその嬉しい巡り合わせです。
◯
ニッケ鎮守の杜、手仕事の庭では、工藝や食にまつわる植物を育てています。
芽吹きはじめた藍たちは夏に生葉染めを。
(奥で大きくバンザイしているのは、ヒマワリのこぼれ種の芽)
RIRI TEXTILEさんに教わって昨年から育て始めたダイヤーズカモミールも、
冬を越して新しい葉を繁らせています。
染色に使う部分は花。咲いたらまたおたよりします。